初代Deus Ex(以下初代)から11年。続編Deus Ex Invisible War(以下IW)から8年。
多くの人が待ち望んでいたDeus Exシリーズの続編が先月発売された。
RPGとFPSの融合、サイバーパンクを基調とした秀逸な世界観、自由度の高いゲーム性、重厚なストーリーなどが高く評価され
初代の発売当時40以上のメディアからGotYを受賞、メタスコア90点を獲得し、今なお歴史に残る傑作として語り継がれている。
その続編として、当然のように発売前から期待されていた本作は2011年9月18日現在メタスコア89点を獲得している。
舞台――
Deus Ex:Human Revolution(以下HR)は初代の舞台である西暦2052年から遡ること25年。
西暦2027年が舞台となっている。(ちなみにIWの舞台は初代の20年後、西暦2072年)
初代の25年前と言う事で直接的に初代に関わる、と言うよりも間接的に前日譚を語る様にして物語は展開していく。
また、初代では登場人物の多くがサイボーグ化(義体化)済みであったが、本作はサイボーグ化の黎明期として描かれており
貧民層を中心とした多くの人が未だ生身である。
初代からの特徴として、マトリックスや攻殻機動隊と言ったサイバーパンク物へのオマージュも多く見られ
本作中においても頭部からPC端末に直接有線で接続している描写などが見受けられる他、光学迷彩等も登場する。
更にプラズマライフルやレーザーライフルと言った近未来的な火器が登場するのも特徴である。
特徴――
本シリーズのゲーム性における特徴として自由度の高さと、それに伴い特定の問題解決への手段が複数用意されている点が挙げられる。
主人公Adam Jensenは全身サイボーグであり、『頭部』『視覚』『腕部』『胴部』『背部』『皮膚』『脚部』などの細分化された項目の中から
Aungmentationと呼ばれる、サイボーグ強化の技術を用い好みの能力を強化しつつ物語を進めていく事になる。
例えば『頭部』のHacking能力を上げていけば、PC端末や電子ロックの扉や金庫を解錠することが可能になる。
例えば『腕部』のPower能力を上げていけば、冷蔵庫等の重い障害物を持ち上げて動かす事が出来る様になったり、脆い壁を壊すことが出来る様になる。
・これにより、「奥の部屋に侵入する」と言う目的に対し
1,正面から堂々と電子ロックを破り侵入する
2,脆くなっている壁を破壊し侵入する
3,遠回りになるが、通気ダクトを探し出し侵入する
4,電子ロックのパスワードを持っている敵を探し出し、それを奪い侵入する
等の解法が用意、実行できたりするわけである。これは初代とほぼ同じである。
初代との相違点――
まず何と言ってもグラフィックの進化を挙げなくてはならないだろう。11年の歳月は偉大である。
当時Unreal Engine1.5で表現されていたサイバーパンク世界はCrystal engineと呼ばれる独自Engineにより美麗に再現されている。
Crysis2などと比較すると若干劣っている感はあるが、流石Eidosである。PCへの最適化もしっかりされておりグラフィックの割に軽いのは評価出来る。
ゲーム性の変化は時代の流れか様々な所に現れているが、端的に言えば色々な要素が端折られ簡略化されている。
各武器の熟練度等に該当したSkillと言う項目は丸々削除されているし、電子ロック以外の物理的な鍵のかかった扉等に対するピッキングも丸々削除されている。
特に後者の影響は大きく、HRでは作中に登場する扉の全てが電子ロックになっており、Hackingの割合が初代に比べ圧倒的に増えている。
前者に関してはアクションの要素がより強化される形になり、プレイヤーのFPSの腕が如実に結果に現れる様になり、個人的には歓迎出来る変更点であった。
また武器に関しても変更が入っており、ナイフやバール状の何か、剣と言った近接武器が全て削除されている。
但しコレに関してはTake Downの導入やStun Gunなどの導入によりバランスが取られている。
Take DownはEnergyCellを一つ消費し、近距離の敵を気絶若しくは暗殺する物で初期から使用可能になっている。Stun Gunは近距離で敵を撃つ事で気絶させられる。
ストーリー――
ネタバレの可能性もあるので余り多くは語れないが粗筋を語ろう。
前述した通り、HRはサイボーグ化技術の黎明期の物語である。
それだけに主題として「人は技術の進化に伴い、自らもその技術によって進化し続けるべきか否か」と言う物がある。
物語はその手の技術を扱う大手企業Sarif Industriesが何者かに襲撃される所から始まる。
Sarif Industriesの警備主任であった主人公Adam Jensenはその襲撃の際に生命に関わる大怪我を負い、自らサイボーグ化される事となる。
サイボーグとして蘇ったAdam Jensenは襲撃の陰に潜む黒幕と陰謀を暴くべく行動を開始する……と言うのが冒頭である。
特筆すべきはその世界観、空気感の作り込みである。
多数のオブジェクト、雑多感、モブキャラの数。
街を歩けばネオン煌く看板が至るところに掲げられ、裏道に入ればチンピラ達がタムロしている。
サイバーパンクとは確あるべき、と言うその空気感を殆ど完璧に再現しているのだ。
プレイを始めれば、その手の作品が好きな人には堪らない世界がモニターの中に広がっている。その没入感たるや筆舌に尽くしがたい。
問題点――
XPシステム、これに尽きる。
HRはRPGの要素として、敵を倒す、Hackingを成功させる、隠し通路隠し部屋を発見する、ミッションを成功させると成果に応じてXP(経験値)が得られる。
そのXPが一定値に達すると、Augmentationを強化するためのポイントが貰えるシステムになっている。
このシステム最大の問題点はXPの偏りにある。
敵を倒す事によって貰えるXP。近距離に近づきTake Downで気絶させると50XPが貰えるのに対し、遠距離から銃火器で射殺すると10XP(但しヘッドショット時はボーナス10XPが貰え20XP)。
その差40XPである。序盤のミッションだと敵の数は20~30。後半になると50を超える物もある。
その全てをいずれかで処理すると敵の数が50の時2000XPの差が出る事になる。こうなると大抵の人は近距離まで近づきTake Downを狙うだろう。
またHackingも成功すると難易度により異なるが、20~75XP程度が得られる。これはパスワード入力した時には得られない。
よって本編とは全く関係の無い扉や端末を片っ端からHackingし、且つパスワードが分かっていても、それを無視しHackingした方がXPが得られるため得、という事になる。
更にミッションクリア時にステルスで、敵に発見されず、またアラーム等を鳴らされずにクリアするとボーナスで最大3000XP程度が得られる。
結果として、ステルスで侵入しTake Downで敵を無力化しつつ、片っ端から端末や扉をHackingして、MAPを隈なく歩きまわり隠し通路や隠し部屋を探すと言うのが一連の流れになり
折角自由度が高いゲームなのに、特定のプレイスタイルのみで進行する事が多くなってしまい自由度を阻害している。
勿論、こういったプレイスタイルをせずにアサルトで突っ込んでいきランボーよろしく銃撃戦を楽しむ事も出来るが、そもそも弾薬の入手数が少ない上、結果としてAugmentationのアンロックが遅れるため
今度は取れる選択肢が少なくなる、と言う観点から自由度が阻害される形になる。
初代ではMAP上に落ちていたり、NPCから貰えるUpgrade Canisterと呼ばれるアイテムによりAugmentationをアンロックさせる事が出来たが
今作でもそちらのスタイルを維持した方が良かった様に思える。
総評――
最後にXPシステムの問題点について言及したが、それ以外に関しては大きな問題点は見当たらないと言っても構わないだろう。
細かく見ていけば当然問題点は存在しているが、それはありとあらゆるゲームにおいて存在し得る物である。
欠点のない完璧なゲーム等無い以上それらの細かい問題点は瑣末事でしか無い。
それこそ昨今のゲームはこのXPシステム並の問題点が山積みのゲームが散乱している。その中で、この一点のみの問題点で済むと言うのは破格であるとも言える。
総じて完成度も高く、前述したように世界観、空気感の作り込みはトップクラスだと言える。
何よりサイバーパンクという多くのファンを抱えるジャンルにおいてこれほど優れたゲームは中々見つけ難い。
シリーズファンが遊んでも、「時代の流れ」と言われれば納得できる作りとなっており、現代版Deus Exとしてそれなりに楽しめる物になっている。
初代を遊んでいない人がいきなり遊べば、メタスコア89点の実力を体感出来ることは間違い無く、ここに書いた以上の評価を与えてもおかしくは無い。
ライトゲーマー志向のゲームが多いこの時代において、ライトゲーマーもヘビーゲーマーも楽しめる作品としてよく出来ているのも見逃せない。
個人的には発売前はあまり期待していなかったのだが、良い方向に裏切られ嬉しい限りである。
これならば「Thief4」にも期待が持てそうだ。
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